深夜午前0時を過ぎ、ようやく机の灯りを落とし、一人静かな会社を出た。
誰もいないオフィスで目の前の仕事に没頭していると、時間の感覚はいつも薄れていく。気が付けば日付が変わっていた。
妻は出張中。
灯りのない家へ帰り、「余市」のハイボールをひとつ作る。
氷が静かに崩れる音だけが、今日という一日の終わりを告げてくれる。
そんな夜に、またリフレインして聴いてしまう一曲がある。
André Rieu と Emma Kok が歌う『Voilà』。
YouTubeでは世界で1億回を超えて再生され、多くの人の心を震わせてきた演奏だ。
「これが私です」と歌う少女
歌っているのは、オランダの少女、エマ・コック。
彼女は胃無力症という難病を抱え、生後間もない頃から栄養チューブで命をつないでいる。
普通に食事をすることさえできない。
学校では病気や小柄な体格を理由に、つらい経験もしてきたという。
それでも彼女は、「歌手になる」という夢を手放さなかった。
彼女が歌う『Voilà』は、
「これが私です。ありのままの私を見てください。」
という、自分自身をさらけ出す歌である。
彼女は歌詞を演じているのではない。
自分自身の人生を歌っている。
だから、その歌声には飾りがない。
だから、人の心に真っすぐ届く。
巨匠アンドレ・リューが伝えたかったこと
演奏の前、アンドレ・リューは静かに語る。
“She cannot eat. But she has a dream. She wants to be a singer.”
「彼女は食べることができない。でも夢がある。歌手になりたいという夢が。」
この紹介が素晴らしいのは、病気を主役にしていないことだ。
主役は、夢。
そして演奏が始まると、世界的なスターであるアンドレ自身は半歩後ろへ下がる。
オーケストラもまた、エマを支えるための存在となる。
彼は自分が輝くことよりも、彼女が輝く舞台をつくることを選んだ。
だから、この演奏は美しい。
人を動かすのは、才能だけではない
この動画では、多くの観客が涙を流している。
もちろん彼女の歌唱力は圧巻だ。
しかし、人を涙させているのは歌の上手さだけではない。
苦しみの中でも夢を諦めず、自分を信じて歩み続ける姿。
その姿勢が、人の心を動かしている。
人は、「完璧な人」に魅了されるのではない。
弱さを抱えながらも、一歩ずつ前へ進もうとする人に、心を動かされるのだと思う。
静かな夜、自分自身と重なる
誰に見せるためでもなく、目の前の仕事だけに向き合い、じんわりと疲れが滲む夜。
経営という仕事は、最後は自分一人で決断し、自分一人で責任を負う。
だから、ときどき孤独を感じることもある。
そんな夜にエマの歌を聴いていると、不思議と自分自身にも問いかけたくなる。
自分は何を信じて、ここまで歩いてきたのか。
そして、これから何を信じて歩いていくのか。
夢は、人を惹きつける
この演奏を見ていて、改めて感じたことがある。
夢を信じて歩み続ける人は、美しい。
その姿は、人を魅了する。
共感を呼ぶ。
応援したいと思う人が現れる。
アンドレ・リューも、その一人だったのだろう。
彼はエマの才能だけではなく、その生き方に心を動かされたからこそ、自分の舞台を彼女に託したのだと思う。
そして、その応援の輪は世界中へ広がり、1億回を超える人々の心へ届いた。
夢は、一人だけでは大きくならない。
夢を信じて行動し続ける人の周りには、少しずつ共感する人が集まり、応援する人が増えていく。
そうして、一人の夢は、多くの人が支える”美しい事業”へと育っていく。
私は、そのことをこの演奏から教えられた気がした。
今年の秋、パリへ
今年10月には仕事でパリを訪れる予定だ。
今回は全日程ビジネスになる。
それでも、ヨーロッパの空気に触れ、この曲が生まれた文化を少しでも感じることができたらと思っている。
そしていつの日か。
アンドレ・リューのコンサートを現地で聴ける機会があれば、これほど幸せなことはない。
ハイボールの氷が、また静かに崩れた。
グラスに残る余市の香りをゆっくり味わいながら、この歌をもう一度流す。
静かな夜に、リフレインする。
🎵 André Rieu & Emma Kok『Voilà』
世界で1億回を超えて再生され、多くの人の心を震わせてきた一曲です。
ぜひ一度、お聴きください。




