今日仕事を終えて雨の中、車に向かっていると、
  見知らぬ男性が自転車を押しながら、前を通っていた。
  『不審者だ』
  そう思った自分は、経営者としての【リスク管理】の文字が
  頭をよぎり、
  「何してるんですか?」と迷惑そうに問い詰めた。
  それでも、黙々と雨の中を傘もささずに荷物を積んだ自転車を押していく。
  そして、スペースがある屋根付きの会社の駐車場に着いた。
  「困りますよ。ここで何してるですか。出て行ってください」
  と私。
  
  「うるせえ。今から○○(スーパーの名前)に行くところよ」
  と捨て台詞を残し、のそのそと門外で出て行き始めた。
  『やっと、出て行ったか。これで、会社の安全は確保できた』
  と、車に乗り込んだ。
  
  しかし、帰路の車の中で、どうも気持ちが釈然としない。
  『会社のリスク管理』『人としての行動』
  この二つの言葉が、入り混じって、落ち着かない。
 
  先週末の会社の全社会議で、私は何を感じたのか、突然会社の理念を
  改めてみんなに説いた。
  第一に挙げたのが、『人を大切にする会社』。
  当社の最も信頼をおける現場関係の責任者は、4年前に亡くなった社員
  の慰霊碑に毎日欠かさずお茶を朝だしてくれる。
  
  そしてトップである私は、今、 寒い雨の中で雨宿りの場所をやっと見つけたその気持ちを
  関知せず、無情に立ち退かせた。
  「会社の安全」を強調するあまり。
  その後、その男性は どこか雨が凌げる場所を見つけ、またさまよって
  いるのだろうか?
  
  そして、やがて 車をUターンさせて、その男性を探した。
  その男性は、やはり雨の中を 自転車を押していた。
  
  車を近付けて、 
  「どこに行ってるのですか?(戻ってもいいですよ)」と言ったが、
  無視して進ませる。
  しつこく車の中から聞いていると
  「○○(スーパー)だ」と吐き捨てた。
  
  「どうぞ、これ。使ってください」と言って、千円札を渡した。
  「いいと?」
  「どうぞ。風邪はひかないでくださいね」
  「気をつけるよ。ありがと。」
   確か、こんなやりとりだったろうか。
 (小額だったけど、その男性も、そしてそのお金も喜んでくれただろうか)
  その男性は、気を取り直したように、また黙々と進みだした。
  私は、そこで 彼を 会社まで呼び戻すことまではできなった。
  会社には、寮もありお風呂がある。
  なんで、お風呂でも入れてあげることができなかったのか。
  なんで、強引にでも 連れて行こうとしなかったのか。  
  
  私は、経営者としては リスク管理能力は 足りないのかもしれない。
  もしかして、その男性は会社の器物に損傷を与える人だったのかも
  しれない。
  でも、そうなったとしても、会社が倒れる事態までは発展しない
  だろう。
  
  そもそも、当社は 思わぬ人の支え、恩によって この厳しい局面を 
  なんとか乗り切れていれる。
  自分の力なんか知れている。ほとんどが、人の力だ。
  なら、人様に 恩を返さねば。
  何より、人を大切にする会社なら、
  「儲かって繁栄し過ぎるより、人にその恩恵を返す」姿勢で臨まねば
  ならない。
  このブログを読んで、人はたぶん 私のことを冷たい人間と言うだろう。
 そう、確かに、私は冷酷な人間だと、自分でも思う。
  そう思われても、敢えて文字に残したい。
  自分がこのブログを読み返すときに、自分の愚かさを恥じ、そして
  同じ愚行を繰り返さないために。
  外は、まだ雨音が 止まないでいる・・・